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モンマルトルのアヌビス/Anubis in Monmarutle
ポール・スプーナー/マット・スミス

本作は、パリ・モンマルトルのカフェで朝食をとるアヌビスを描いた自動人形です。
整えられた服装、静かなテーブル、コーヒーとビスケット。
文化的で落ち着いた朝の風景で物語は始まります。

 

テーブルの上に現れる一匹のハエ。
アヌビスはそれを追い払おうとしますが、決してうまくいきません。
手は何度も動き、払おうとする意志は明確に見えるにもかかわらず、彼は空振りを繰り返します。

ここに、この作品の本質があります。
 

単なる滑稽な出来事ではありません。
むしろ、私たちが世界をどのように認識し、どのように振る舞っているのかという、極めて根本的な問題を扱っているからです。

 

アヌビスは本来、死者を導く神であり、秩序や判断の象徴でもあります。
しかしこの作品の中では、その威厳は完全に覆されています。彼はコーヒーを飲み、ビスケットを浸し、そしてたった一匹のハエに対して無力だからです。

 

この落差は、私たちに強い印象を与えているようにみえます。
 

人は文化や習慣、形式によって自らの生活を整え、世界をある程度コントロールしていると感じて過ごしています。しかし実際には、些細な出来事ひとつにさえ完全には対処できません。

その現実は普段見過ごされていますが、スプーナーはそれをこの小さな場面に凝縮してみせてくれたのです。

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