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傷ついたミルク/ Poisoned Milk
ポール・スプーナー/マット・スミス
「傷ついたミルク/Poisoned Milk」
1994年 素材|木と金属
ハンドルを回すと、こぼれたミルクを懸命に舐めていた猫が、やがて力なく横倒しになります。
本作は、のちに《ボルジア家の猫 / Borgia Cat》(2010年)として再リリースされたほか、
縞模様の「とらねこ」版が作られるなど、スプーナーが姿を変えながら繰り返し扱ってきた重要なテーマのひとつです。
汚染された草を食む乳牛、そのミルクを口にする猫。食物連鎖を通じて波及するこの「毒」の物語は、20世紀後半に顕在化した環境問題を背景としており、1986年のチェルノブイリ原発事故といった歴史的記憶を呼び起こさせます。
さらに、後の改題に用いられた「ボルジア家」の名は、ルネサンス期イタリアで毒殺や陰謀の代名詞とされた一族を象徴しています。ここで示される「毒」は、単なる環境汚染という現象にとどまらず、その根底にある人間の「欲望」や「業」との密接な関わりを示唆しているようです。
ユーモラスで愛らしい猫の造形と、その死を繰り返させる非情な機構。そのコントラストのなかに、拭い去れない不穏な感覚が横たわる作品です。


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