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釘打は難しい/ An Allegory of Love|ポール・スプーナー/マット・スミス

1993年制作 素材|木と金属

本作の日本語タイトルは「釘打は難しい」ですが、その真のモチーフは、英語の原題が示す通り「愛の寓話(An Allegory of Love)」にあります。
 

ハンドルを回すと、大工仕事に勤しむ男性が、誤って自分の指をハンマーで叩いてしまいます。彼は痛む指を口元に運び、思案にふけるような仕草を見せます。その傍らには、無残にぐにゃりと捻じ曲がった一本の釘が残されています。
 

かつて「愛の寓意」の作者であるブロンズィーノが絵画の中で、複雑な人物配置によって「愛に潜む欺瞞や痛み」を描き出したように、スプーナーはこの小さな自動人形の中に、ままならない人間関係の縮図を閉じ込めました。

一度捻じ曲がってしまった釘を、元の真っ直ぐな状態に打ち直すことは容易ではありません。
無理に叩き直そうとすれば、釘はさらに歪み、自分自身の指(心)までをも傷つけてしまうことになります。

 

「捻じ曲がったものが人間関係ではなく、釘で良かった」という作家の言葉は、一見すると救いのように聞こえますが、その裏には「人間関係の修復がいかに困難で、痛みを伴うものであるか」という鋭い洞察が隠されています。

台座の中で剥き出しになった歯車やカムの仕組みは、この作品の「感情」をコントロールする心臓部といえます。ハンドルを回すと、重いハンマーが勢いよく振り下ろされる一方で、打ち付けた指を口元へ運ぶ動きは驚くほどゆっくりと、慎重に繰り返されます。この「容赦ない衝撃」と「痛みをいたわる繊細な仕草」という正反対の動きを、一つの機械仕掛けが正確に演じ分けているようです。

 

日常の何気ない失敗という形を借りて、愛や人間関係の中に潜む「思うようにならない様」を、木の歯車が刻む独特のリズムに乗せて描き出しています。
 

露出した駆動部は、指先をいたわる繊細な動きと、容赦なく振り下ろされるハンマーの重さを正確に制御しています。日常のささやかな失敗という形を借りて、愛や他者との関わりの中に潜む「修復不可能な脆さ」を知的なユーモアをもって提示している傑作です。

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