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  • 執筆者の写真Hal Furuta

「斜め屋敷の犯罪」に登場するゴーレムに関する記述はオートマタの定説を覆す悪魔の所業か?!ノアの箱舟との関係とは...

更新日:2020年10月22日


島田荘司「斜め屋敷の犯罪」では、ゴーレムと呼ばれる人形が重要な鍵を握っています 。早速そのゴーレムの話へと進める前に、斜め屋敷と呼ばれるあえて傾きをあたえた建造物の主人が集めた奇妙なコレクションが紹介されていることに触れてみたいと思います。 例えば、名前を書く少年、ティンパノンを奏でる伯爵夫人という人形付きのオルゴール、キリスト降誕場面のある時計、女神の鹿狩り、卓上の噴水、水撒き人形などですが、これらはすべてオートマタであるとわかった方はよほどのオートマタ通(マニア)です。

さてゴーレムに話を戻しましょう。この小説には大変興味深い詳細な説明がなされています。簡単に言えば、ゴーレムはユダヤ教の伝説にある人工人間のことと紹介されるのですが、その話は奥が深く、また一見小説の筋とは関係なさそうに感じるのですが、後々に大きなミステリーというよりは小説の肝を補完する役目を担っていることに気づかされます。

もともと、創世記の詩篇百三十九の記述から来ているらしいのですが、ユダヤ教の偉人達はゴーレムを作り出せる能力があるとされます。*一般に知られていない話という前置きがあり読み手の期待感を高めてくれます。 アブラハムがノアの息子のセムと一緒にゴーレムを大勢作って、パレスチナに連れていったという記述がくだんの詩篇にあるそうです。それが、時代がくだり1600年頃のプラハに甦ったとされます。当時のプラハは、輝ける学問の中心地で『千の軌跡と無数の恐怖の街』と言われていたのですが、その輝ける学問とは、占星術や錬金術、黒魔術などを指します。

当時のプラハは、オカルト的な神秘主義の都だったようです。その街で甦るゴーレム。背景には、欧州最大のユダヤ人コミュニティ(ゲットー)があったとされます。何故ユダヤかといえば、ゴーレムはユダヤ教のヤーハェと同じで、迫害の民ユダヤ人の凶暴な守り神。怪力で、強大で、無敵。どんな権力者も、どんな武器も、ゴーレムを倒すことができない。ヤーハェは神ですが、ゴーレムは人口人間。聖職者や、賢人ならば作り出せるロボットのような存在です。

だからユダヤ教のある宗派は、いかにしてゴーレムを創るか、いかにしてそんな偉大な人物になり得るか、そういった神秘主義的な研究に没頭するようになります。この思想をカバラと呼びます。

少しこのプラハ時代から時計の針を逆戻りさせます。12~13世紀、フランスとドイツにゴーレムの論文が現れたというのです。ハシドというラビと、フランスのガオンという神秘主義者が、粘土と水でゴーレムを創る方法を詳しく書き遺していた...とされます。

アブラハム以来、一部の賢人や位の高い聖職者しか知ることができなかった秘法の呪文や、必要な儀式をこと細かに書いたものです。また16世紀に戻ります。プラハのゴーレムは、この論文が下敷きになっているというのです。

(以下、ほとんど本文まま)プラハでゴーレム創りが盛んになったのは、ここが学問の街であり、ユダヤ人のコミュニティがあり、迫害があったから。つまりプラハは迫害の街でもあり、キリスト教徒からユダヤ人は激しく迫害される、そのためゴーレム創りの必要が生じた。 最初にゴーレムを創った者は、レーヴ・ベン・ベザレルというラビだといわれる。彼はユダヤ社会の指導者だった。プラハを流れる川の、川岸の粘土から創ったといわれる。カパラの秘法では、ゴーレムには最後にヒブル、つまりヘブライ語で「エメット」と額に書き込まれなくては動かない。 この文字からEの一文字を書き落とすと「メット=土」となり、ゴーレムはたちまち土に返ってしまう。ユダヤ教の考え方では、言葉とか文字は霊力を持っているとされた。だからゴーレムを創り、動かすものも、儀式の呪文と、ゴーレム自体に書き込まれた文字とされる。

ゴーレムにまつわるひとつの逸話も紹介されている。ある村の井戸が干上がってしまい、遠く離れた小川から、水を汲んでこの井戸に運ぶよう命じる。ゴーレムは忠実にしたがって、来る日も来る日も井戸まで水を運び続ける。いつか井戸からは水が溢れて、村は水浸しになり、家々が水没するが誰もゴーレムを止めることができない。止める呪文が解らないため。

(以上、ほぼ本文まま) 作者は、この後に人間の核戦争を引き合いに出します。水を汲み続けるゴーレムを止めることが誰にもできないということを核兵器開発競争になぞらえたようです。それらは小説にまったく関係ないわけではなく、ミステリーの謎をとくカギにもなっているのですが、これから先は、どうぞ島田荘司「斜め屋敷の犯罪」をお読みください。とても面白いミステリーです。


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