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アヌビスの手品/ Scarab Wrapper|ポール・スプーナー/マット・スミス
本作品では、アヌビスがピラミッド状の箱を持ち上げるたびに、内部のスカラベが姿を変えていきます。
最初の動作で生きたスカラベが現れ、二度目にはそれが仰向けに引っくり返り、三度目にはミイラへと変化します。そして四度目の動作で、再び元の生命の姿へと戻ります。
「生、死、そして再生」という深遠な循環が、この簡潔な動きの中に凝縮されています。
古代エジプトにおいて、アヌビスは死者を導き、ミイラ化の儀式を司る守護神です。
一方でスカラベは、太陽の運行と再生を司る聖なる虫。
そしてピラミッドは、死者が永遠の世界へと至るための「装置」でした。
本作は、これら三つの要素――「導き(アヌビス)」「移行の場(ピラミッド)」「再生(スカラベ)」――を組み合わせることで、死生観の物語を一つの円環として提示しています。
この巧みな変化は、驚くほど合理的な機構によって支えられています。
スカラベが乗る台座は、三つの面を持つ回転体となっており、箱の上下動に連動して一面ずつ回転する
仕組みです。
この「多角錐の回転」という原理を応用すれば、面の数を変えるだけで変化の回数を自在に設計できます。例えば、二回であれば一枚の板の表裏、四回であれば四角錐といった具合です。
単なる手品のような視覚的驚きの中に、古代の死生観と極めて現代的な数学的設計が同居しています。
鑑賞者は、その軽妙な動きに誘われながら、いつしか深遠な意味の構造へと導かれることになるでしょう。




近沢名恵氏に「アヌビスの手品」の解説を描いていただきました。
2021年3月3日
MOLEN
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