- Hal Furuta
- 9月30日
- 読了時間: 2分
更新日:10月2日
「玉の輿 / 原題:Mill Girl and Toff(1992年制作)」という作品は、
ポール・スプーナー の美術哲学を理解するためには、非常に重要
な手がかりになる作品であると思います。
私はこの作品を長年にわたり注意深く観察してきましたが、ようやく
たどり着いた理解を、 ここで皆さんにお伝えしたいと思います。
重要なのは、この作品の物語自体が「ひとつの装置」として構成されて
いること、 そしてそれが五幕から成る“哲学の舞台装置”として展開され
ているという点です。
第一幕は、若い跡継ぎと工場で働く娘の恋物語です。いわば「甘い罠」
として、シンデレラのような幻想にやさしい共感を呼び起こします。

第二幕では、結婚を墓にたとえることで感情が反転し、皮肉めいた
アイロニーの楽しみがもたらされます。
第三幕では、社会の仕組みの残酷さに向き合うことになります。
そこでは、死後にまで続く階級の差が、棺の素材の違いによって
象徴されています。

第四幕では、棺や墓地といった繰り返し登場するモチーフが、
「*福祉国家」と呼ばれるものの空洞化を静かに映し出しています。
その理念はすでに硬直し、実質を失ってしまっているのです。

第五幕において、この作品の真の核心が現れます。それは、意図的に
「未完成」のままにすることで、最終的な解釈を拒むという点にある
のです。
つまり、この作品は完結した主張ではなく、むしろ観る人それぞれの
思索を通じて、さらに深まり続けるものなのです。
まさにこの「未完成性」こそが、ポール・スプーナーが生み出した最大の
知的な仕掛けであり、私自身もようやく、その地点にたどり着きつつある
のだと思います。 *Wikipediaより 「福祉国家」とは、社会保障制度の充実を形容する言葉で、第二次世界大戦後に労働党の掲げたスローガンである。これが日本を含めた各国の社会福祉政策の指針となった。イギリスの社会福祉サービスは、国民全員が無料で医療サービスを受けられる国民保健サービス (NHS) と国民全員が加入する国民保険 (NIS) を基幹とすることが特色である。
しかしながらこの政策は膨大な財政支出をもたらし、「イギリス病」に由来する税収の伸び悩みにより、NHSの財政圧迫は深刻な問題となった。
©Paul Spooner ©MOLEN