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「玉の輿 / 原題:Mill Girl and Toff(1992年制作)」という作品は、

ポール・スプーナー の美術哲学を理解するためには、非常に重要

な手がかりになる作品であると思います。

Mill Girl and Toff(1992年制作)
Mill Girl and Toff(1992年制作)

私はこの作品を長年にわたり注意深く観察してきましたが、ようやく

たどり着いた理解を、 ここで皆さんにお伝えしたいと思います。


重要なのは、この作品の物語自体が「ひとつの装置」として構成されて

いること、 そしてそれが五幕から成る“哲学の舞台装置”として展開され

ているという点です。


第一幕は、若い跡継ぎと工場で働く娘の恋物語です。いわば「甘い罠」

として、シンデレラのような幻想にやさしい共感を呼び起こします。

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第二幕では、結婚を墓にたとえることで感情が反転し、皮肉めいた

アイロニーの楽しみがもたらされます。


第三幕では、社会の仕組みの残酷さに向き合うことになります。

そこでは、死後にまで続く階級の差が、棺の素材の違いによって

象徴されています。


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第四幕では、棺や墓地といった繰り返し登場するモチーフが、

「*福祉国家」と呼ばれるものの空洞化を静かに映し出しています。

その理念はすでに硬直し、実質を失ってしまっているのです。

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第五幕において、この作品の真の核心が現れます。それは、意図的に

「未完成」のままにすることで、最終的な解釈を拒むという点にある

のです。



つまり、この作品は完結した主張ではなく、むしろ観る人それぞれの

思索を通じて、さらに深まり続けるものなのです。



まさにこの「未完成性」こそが、ポール・スプーナーが生み出した最大の

知的な仕掛けであり、私自身もようやく、その地点にたどり着きつつある

のだと思います。 *Wikipediaより 「福祉国家」とは、社会保障制度の充実を形容する言葉で、第二次世界大戦後に労働党の掲げたスローガンである。これが日本を含めた各国の社会福祉政策の指針となった。イギリスの社会福祉サービスは、国民全員が無料で医療サービスを受けられる国民保健サービス (NHS) と国民全員が加入する国民保険 (NIS) を基幹とすることが特色である。

しかしながらこの政策は膨大な財政支出をもたらし、「イギリス病」に由来する税収の伸び悩みにより、NHSの財政圧迫は深刻な問題となった。 ©Paul Spooner ©MOLEN

 
 
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